・・・買い物。

　・・・枢は、海を見たことがなく・・・泳ぎも、出来ない。
必要なかったからと、言うと・・・それで終わってしまうのだけど、学園の授業で・・・水泳と言うのがあって、泳がないといけないらしい。
　森次に教えて貰おうかと、相談したのだけど・・・教えるのが苦手らしいから、蒼崎と奈留から習うことになった。
それに伴って、水着を買いに・・・。
・・・支給された水着のこと聞かれたのだけど、その一部が入らなくなってしまったので・・・買いにいくことになった。
　・・・正午に校門に待ち合わせの約束で、3人で買い物。
街に詳しくない、枢と奈留だけでは・・・買い物が出来ないので、蒼崎に一緒についてきてもらうことになった。

　・・・楽しい（呟。
頬が緩んでしまうことが多くて、ちょっと焦る所もあったけど・・・ちゃんと水着は、買えたし・・・後は、習うだけだ。
・・・蒼崎は時々怖いけど、その手取り足取り・・・胸と腰は・・・枢が言ったことだけど、恥ずかしいかな（あせあせ。

布1枚で、なんでここまで騒ぐんだろう？
裸とあまり・・・変わらないと、思うのだけど・・・。

…堕ちていく。

　・・・・・・・・・・・（赤面＋自己嫌悪中。
・・・なんで、あんな約束したんだろう（呟。

　・・・冷静に考えれば、あんな無謀極まりないこと・・・する意味が、ないのに・・・。
枢は随分前から『天敵』だと認識してた。
　それなのに、何故・・・？
約束を破ることは、よくないと思う。
・・・出来るだけ、したくないことの1つだ。

　あれは毒薬なのを知ってるのに、触れてしまったのは・・・重傷で、おかしかったから・・・？
・・・何よりも、目の前にある好物の誘惑に・・・勝てなかっただけ・・・かもしれない。
　どんな結果を招いても、枢は『欲しい』と望んでしまった。
・・・あれに手を出すと、引き戻れないと知って・・・。

―――堕落は、大罪だと知る。

　・・・我慢すればする程、その波に目が眩む。
己の声ではないような、身体の内側から喉を通り過ぎて行く。
気だるく・・・身を焦がすような熱さに、酔いしれる。

名を呼ぶと、自ら負けを認めるようで、口に出来ない

　・・・でも、呼ばない限り・・・終わらない。
終わらせてくれない。
求めなければ、何時までも解放してくれない。
・・・どんどんと、切ないような・・・息苦しいような、甘い苦痛が・・・溜まっていく。
苦痛が、長引けば長引く程・・・可笑しな感覚に囚われていく。

・・・お願い・・・・・・もう、無理・・・許して、・・・・・・ぃ・・・

・・・解放を待ち望み
狂える歓喜を・・・
――――堕ちていく

Close

…餓え、渇き。

　・・・全力で走った。
まただ。また、出てる。また・・・頬を伝ってきた。
・・・ふらふらとした身体を、修羅道で支え・・・肩で息を繰り返す。

もう傷つけない。
心配をかけない。
・・・泣かせない。

　大切だから、護る。・・・それが自分からでも。
枢は、護ることしか出来ないから。
それしか取り得がないから、それでしか大切にする方法を知らないから。
・・・例え、どんなに痛んでも・・・。

・・・なんの為に、あの約束を交わしたか、解らなくなるから・・・。

　枢には壊す力と癒す力があるけど、壊す力に偏っている。
そして、己が人でないと・・・思い知らされる。
傷を癒す為に、人が栄養を求めるように、枢にもどうしても欲しくなる物がある。・・・それは、生気。
・・・純粋な能力者に遠い・・・人間の・・・命。
身体が貪欲に欲するのは生命の塊。
・・・肉への飢えが、喉を潤すほどの血の渇きが・・・どうしょもなくなる欲しくなる。

　　　・・・　ホシイ　・・・

・・・　ホシイ　・・・

・・・　ホシイ　・・・　　　.

　頭の中に狂える程、同じ声がする。
必死に駄目だと押さえ込む。
・・・枢の為にしてくれた・・・人達の行動を、無駄になんか・・・したくない。

やだ。やだよ。
哀しい顔をしないで
そんな顔させたい訳じゃない
笑っていて欲しいよ。
枢を必要だと言ってくれた
とても人間らしい能力者
呪わしいのは己の体質
・・・消えて無くなってしまいたい。

Close

・・・伝う物。

　・・・重傷中は、厄日のはずなんだけど・・・枢は、幸せだと、認識してる。何処か壊れたのかな・・・？

　・・・その発言に、何故か・・・目から水が沢山溢れて・・・頬を伝っていった。
最近、どうもこうなる事が・・・多い。
・・・前もこうして、真名を困らせた気がする。

あれは、人のように『友達』が、欲しかったから

　枢が友達を欲しいなんて・・・分不相応かもしれないけど・・・あの時は、枢が真名に近寄っていった。
それで、枢は満足だった。
・・・だから、それ以上は・・・求めようとは思わなかったし、必要ないと思っていた。
　―でも、人から・・・それを、求められた。
・・・他人行儀だと、言われた。
名を呼ぶことは・・・嫌いなのかとも、問われた。

・・・呼ばないじゃない、呼べないだけ・・・

　枢は、名は相手が許さなければ・・・決して呼ばない。
　　　　姓を呼ぶのは、相手を認めているから。
　　　　名を呼ぶのは、他の者と違う特別になるから。
・・・だから、姓を呼ぶ。

　枢の特別は少ない。
得てして作らない訳ではない。
人を理解するのが難しく、どうしてか解らないけど・・・一線引いてると自覚はある。
・・・分不相応なことをして、迷惑を掛けたくないだけなのか
唯、臆病なだけなのか・・・。
　枢は、己を理解してるつもりでは、いる。
だからこそ、気安く相手の名を呼んでいい立場でないことも・・・自覚している、つもりだ。

　なのに、それを求められて戸惑った。
不覚にも、取り乱していたと思う。
じゃなければ・・・あんな醜態を晒すなんて・・・（凹。
何故か頬が熱を帯びた。
胸の奥が、全力で走った後のように何度もどくどくと暴れていた。
脈を同じように、妙に早く目が回りそうだった。
視界も滲んで、どんどんぼやけていった。
顔を上げてもいられないし、相手のことを見ることすら出来ず・・・只管、俯いていた。

　・・・求められ、その名を呼んだ時は・・・逃げ出してしまいたい衝動に駆られた。
今も、思い出すと・・・頭の中が、真っ白になりそうになる。
・・・今までの嬉しいとは、違う『嬉しい』。
似て否なる物。

・・・伝う物は、胸を強く叩き、とても温かかった。
・・・これからも・・・よろしく、奈留（照。

Close

・・・重傷。

　・・・立ち込める死臭。
腐る肉の匂い。
乾いた血の後があり、妖獣型のごーすとに鬼達が徘徊していた。

　・・・鬼は強かった。
一撃、一撃が重く・・・深く入りすぎると、簡単に倒されることになる。
目の前が真っ赤になって、もう駄目だと・・・思っても、ゆっくり倒れてるわけには、いかない。
・・・土蜘蛛様が、未だ前線で戦っているのに・・・立ち止まる訳にはいかない。
こんな所で膝をつく従者など、なんの役にたつか・・・。
　口の中に馴染んだ味がしたけど、最後の戦場に向かった。
生命賛歌の効果中は、簡単には死なないから・・・まだ、枢はここに立っていられる。

　メガリスの効果が切れ、その場に倒れこんだ。
・・・そうなるはずだった。
枢が当たった物は冷たいアスファルトではなく、温かな兄様の腕の中だった。

「…お疲れ様、枢。」

その言葉に、頬が緩むような感じがした。急速に、意識が深い深い所へ落ちて行った。

・・・起きたら、あちこちが痛み訴え
蟲達が忙しなく働いている。
・・・自分が、重傷だと自覚できた。